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なるほど工場見学
bike factory tour

01自転車塗装工場

text by 杉谷紗香(編集部)
自転車はどうやって出来ている? そんな素朴な疑問をもって、関西エリアに拠点を置く自転車関連の工場をたずねる新連載。 第1回は、堺市にある自転車専門の塗装工場「milky way」へ。 単に塗るだけが仕事じゃない、手仕事の職人の世界をのぞいてきた。

ベテラン揃いの塗装職人たち。細やかなグラデーションもスプレーガン1本で美しく表現する。

   

阪神高速・美原JCTからほど近い、静かな住宅街に塗装工場「milky way」はある。 どの駅からも5km以上離れているので、地下鉄谷町線の八尾南駅から輪行で向かった。 石川沿いの自転車道を走り、羽曳野の丘陵地帯を抜けてのんびり走ること約45分。 工場内に入ると、塗料の独特の匂いが漂ってきた。

大きな窓のある工場内は、適度に自然光が採り込まれて、思いのほか明るい。 入口近くの窓辺に吊り下げられた塗装後のフレームが、差し込む光できらきら輝いていた。 「自転車は、太陽の光の下で乗るでしょう。だから、塗装の色チェックも自然光で行うんです。暗くなると塗装の仕事はできないんで、朝8時から稼働しているんですよ」というのは専務の三木一憲さん。 自らもスプレーガンを握る職人で、この道25年以上のベテランだ。 国内の自転車産業が元気だったころは、堺のフレームメーカーで塗装を担当していたが、メーカーは廃業、当時の同僚3人と6年前にこの工場を始めた。 現在、関西にある自転車塗装工場は、こちらと、大阪市生野区の老舗「上村塗装工業所」の2件で、自転車塗装の専門となると全国でもめずらしい。

milky wayのメンバーは5名。 塗装担当が2名で、調色担当、仕上げ担当、下処理担当が各1名ずつ。 この道45年の高齢の職人から、1年目の新人見習いまで年齢層は幅広い。 「色のことは数字では表わせないから、ベテランの経験はとても大事。パソコンで色を指定しても、モニターによって色の見え方が異なるし、フレームは立体的なので角度によって感じる色も違ってくる。サンプルのパイプに試し塗りして確認してもらい、お客さんの求める色を探っています」と三木さん。

さて、塗装工場に持ち込まれる自転車フレームは大きく分けて2種類。 一つは、ビルダーが作り上げたばかりの新品フレーム。 もう一つは、自転車ショップ経由で届く、長年乗り続けた中古フレーム。 えっ、中古でも塗装し直せるんですか?と三木さんに聞くと、「自転車のフレームは、特殊な場合を除いて、基本的にきちんと下処理をして再塗装すれば、たとえサビだらけでも、塗装がはがれてボロボロでも、新品同様にリフレッシュできるんです。最近は、中古車をレストアして、塗装も変えて乗り続ける方が増えていますよ。愛車にこだわりがある方は、自分だけの一台を求めているから、色のオーダーも個性的でおもしろいですね」。

色が決まって、工場にフレームが届いたら、塗装に入る前に、フレームを“すっぴん”の状態に戻す「はがし」の工程がある。 これは塗装とは別に専門の業者がいて、古い塗装やアルカリを酸で剥離する。 さらに防腐効果を高め、塗料の乗りを良くするリン酸亜鉛処理を表面に施して、塗装工場に戻ってくる。 「はがしの後、こちらでプライマーという下地を塗るまでの間が一番デリケート」という下処理担当の西尾界太さん。 汗が飛んだり、手でふれて指紋がつくだけでも、そこからサビてしまう。「 とはいえ、夏でもエアコンを入れることができないんです。 エアコンの風でほこりが舞って、塗装の仕上げに影響しますから。 汗にも神経を使うし、夏の作業は大変です」と西尾さん。

下地を塗った後、全体を磨いてから、ようやく塗装作業。 下塗り・上塗り・クリアー塗装の3工程あり、スプレーガンでムラなく塗っては窯で焼きつける、を繰り返す。 一連の工程はすべて手作業で、1本を塗り上げるのに半日から1日かかる。 クリアー塗装の前には全体をペーパーがけして、表面を整えてから仕上げる、という念の入れようだ。 「愛着をもって乗ってもらいたいから、キレイに仕上げるためには、とことんこだわりたい」と、三木さんは職人の目で笑った。

(本紙掲載 2013年3月22日)


塗装を待つ、すっぴん状態のフレーム。

カラーオーダーの色見本は全53色。
これら基本の色をベースに、マットな質感にしたり、色味を変えたり、ラメを足したりとカスタムできる。

専務の三木一憲さんと、見習い1年目の西尾界太さん。
「塗装の依頼は、提携している自転車ショップでオーダーできます。仕上がりまで2〜3週間です」。