back number

なるほど工場見学
bike factory tour

03オーダーフレーム工場

text by 杉谷紗香(編集部)
関西エリアに拠点を置く自転車関連の工場をたずねる連載の第3回は、京都の老舗自転車店・イワイサイクルセンターへ。 同店のオリジナルブランド「gan well」のオーダーフレーム工場で、美しいクロモリ製フレームがハンドメイドで作られている様子を見学した。

力仕事から細かい溶接まで一人でこなす北島さん。gan wellフレームで勝利した競輪選手のユニフォームがいくつも壁に掛かる。

   

向日町競輪場から約3km、国道171号に面した京都市南区のイワイサイクルセンター久世殿城町店の奥に、「gan well」のフレーム工場はある。 シティサイクルやスポーツバイクが並ぶ店頭を抜け、通路の奥にある工場に入ると、1階の作業場に旋盤や治具、溶接器具などがずらりと置かれている。 そこで、手ぬぐいを頭に巻いた職人が一人、FMラジオの流れる中、黙々と作業に集中していた。

「1965年にこの工場を開設した時は、4人の職人がいたそうですが、現在は私だけ」と話すのは女性ビルダーの北島有花さん。 手がけるのはクロムモリブデン鋼製フレームのみで、主には競輪選手用だが、プロでなくてもフルオーダーが可能。 作業場の中で特に目を引くのは、ダイアモンドフレームに数字が書き込まれた黒板だ。 「制作中のフレームの各パイプの寸法を、作業しながらいつでも確認できるように書き込んでいます。フレームは自転車の骨格、わずか0.5mmの差で乗り味が変わってしまうんですよ。現在、約130選手のフレームを担当していますが、1本1本完成させるので、仕上げるまで別のフレームを作ることはありません」と北島さん。

緻密な設計で成り立っているフレームだが、8本のパイプによるフレーム作りは、すべて手作業! 「パイプを設計通りの寸法で切断した後は、切断面をグラインダーで削って、やすりで整え、ラグと呼ばれるジョイント部材とともにでパイプ同士をつないで溶接して、やすりで削って仕上げて…という一連の作業の繰り返し。特に、ヘッドチューブ、トップチューブ、ダウンチューブ、シートチューブの4つのパイプからなるフレームの前三角作りには時間がかかりますね」。 パイプ同士を仮止めしてからも、800℃以上のガスバーナーで溶接すると、熱でほんのわずか縮む。 そのズレも含めて調整しながら作っていく。

さらに競輪用フレームともなると、勝負に関わるシビアな世界。 「1着になれば良いフレームでも、9着だと鉄クズ同然。注文いただく選手と私は、信頼関係で成り立ってますから、オーダーには技術で精一杯応えないと」とクールに言い放つ。

そんな北島さんが、ごく普通のサイクリストからフレーム職人への道を歩み始めたのは約8年前。 きっかけは、サイクリング仲間をギャフンと言わせるため(!)。 「パーツだの何だのマニアックな知識を語る人に、あなたはフレームが作れるの?と言えたら一発で黙らせられるでしょ?(笑)」。 仕上げの美しさで定評のあったビルダーに弟子入りして3年ほど腕を磨き、その後、京都へ移って今年で6年目。 「先輩ビルダーには技術を教えてもらって支えていただきました。でも、レースの場ではそんなベテランたちと勝負しないといけない」という北島さん。 そのために、競輪場へ足を運んで選手に聞き込みして情報収集、自分の手がけたフレームを使う選手のレースは過去4か月分の動画を分析。

「選手の動きをムービーでチェックすると、ここ一番で踏み込めていなかったり、前半ダメでも後半に伸びたり…自転車のことはレースが全部教えてくれます。作ったものの結果が1か月以内に出るから、やりがいがありますね」。

競輪の世界と対照的なのが、一般客のオーダー。 「フレーム1本157,500円からと高額なので、一生モノとして注文する方がほとんど。キレイに仕上げようと気合いが入ります。ラグの仕上げは特に職人の個性が出るので見ていただきたいですね。あと、塗装には依頼主の好みが出ておもしろいですよ。阪急電車が好きだから車両と同じ色に、とか、星が好きだからと星空の写真を持ってきたりとか。フルオーダーといっても、依頼いただく方は寸法のことなど、専門知識は必要ないですよ。どういう風に乗りたいかが決まっていればOK。気軽に相談してください」と頼もしく笑った。

(本紙掲載 2013年9月20日)


フレームの角度を測る台。目盛が細かい!

パイプ断面の加工やアセチレンガスを使った溶接など、火花が飛び、ガスバーナーを使うイメージが強いが、「火を使う作業は一瞬。ほとんどが削り作業です」(北島さん)。

1965年にスタートしたgan wellブランドは、1980年にはNJS認定を受けた。“Pro”の名が付くのはこの工場で作られたフレームだけと、完成品を手に微笑む北島さん。