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なるほど工場見学
bike factory tour

05自転車用ライト工場

text by 杉谷紗香(編集部)
自転車関連の工場をたずねる連載の第5回は、岡山県へ。 黒猫マークでおなじみ、自転車用ライトやリフレクターのメーカー「キャットアイ」の工場を見学した。 戦後、リフレクター製造からスタートしたものづくりの現場では、厳しい品質管理の下世界基準の確かな製品が作られていた。
   

リフレクター、自転車用ライト、サイクルコンピュータ。 3種のサイクルアクセサリーを柱に、国内外で高いシェアを誇るのが今回取材したキャットアイ。 創業は1946年。大阪市住吉区にある本社で製品開発を行い、リフレクターを大阪の河南工場で、ライトとサイクルコンピュータを岡山の吉井工場で製造している。 特に吉井工場では、最新鋭の機械と設備を導入して、パーツの成形から組み立てまでを一貫して行っていると聞いて、西へ向かった。

吉井工場があるのは、吉備高原の南山麓、岡山県赤磐市。 JR山陽本線和気駅から北へ20km、廃線跡を利用した自転車道「片鉄ロマン街道」からも、のどかな里山にたたずむベージュ色の工場が見えてくる。すぐ近くには清流、吉井川。 澄んだ空気の中、鳥の声が聞こえるほど工場周辺は静かだが、工場内に入っても静か!

「工場は2棟ありますが、組み立て棟は軽作業が中心。 もう1棟はパーツの成形工場と資材置き場。成形するパーツも小さなものですから、大きな作業音はほとんどしないんです」と、吉井工場次長の藤原重巳さん。 時おり、パーツ成形用の金型を運ぶクレーンがブイーンと低い音をあげるほかは、プシュー、カチカチ、キュイーンと、短い作業音が規則的に聞こえてくる。

組み立て工程の見学中に聞こえた、キュイーン!という高い音は「超音波溶着」の工程で出る。 この溶着技術は、組み合わせたパーツをミクロン単位で高速振動させ、摩擦熱で表面を溶かして接着している。 接着剤を使わずに組み立てることができ、溶着も約1秒で完了。防水性が上がり、製造時間も短縮できるので、同社の多くの製品に導入されている。

組み立て棟にはクリーンルームもある。 さすがハイテク企業!と興奮しながら見学させてもらうと、白衣をまとった技術者たちが大型の精密機械を操作して、サイクルコンピュータの頭脳である基板をテキパキと作っていた。 作業工程を解説してもらったが、「チップを回路に…」「LSIが…」「25ミクロンの純金で…」とハイテクワードの乱れ打ち。 文系すぎる筆者は単語だけでクラクラきた。

さて、現在はグローバルに展開するハイテク企業へと成長したキャットアイだが、創業時は「津山製作所」という名前で建築金物の製造販売を行っていた。 それが1948年、自転車業界に転換し、1957年には日本初の本格的リフレクターを製造、“キャットアイ”の商標で販売を始めた。 その陰には技術者のとてつもない努力があった、と語ってくれたのは吉井工場長の中村直樹さん。 「現社長の曽祖父にあたる創業者がリフレクターの製造を始めた当初は、規格審査になかなか通らなかった。それで、なぜ?と猛研究を重ねた結果、さまざまな安全規格を満たすようになり、ようやく業界で品質が認められた」と中村さん。 規格に通れば、名前も通る―1967年にはアメリカの規格SAE-CHPに合格。 以後、欧州ほか各国で規格を次々と満たすのに伴い、ブランドの黒猫印は世界市場で信頼のマークとして定着していった。 最初のリフレクター製造から50年を経た現在、世界のほとんどの国で安全規格適合品として認定され、10億人以上の安全に貢献している。

リフレクター製造で培ったものづくりの原点にあるのは「すべては品質のため」。 製造過程で使う検査機器を独自に開発し、自社の厳しい基準で品質管理を行う。 ライトの製造に至っては、ドイツの品質検査で使われる機器を吉井工場の測光室に導入し、検査本番さながらの環境で技術開発にあたっている。 「数字は正直です。人間の目では判断のつかないことも、機械が検査すれば白黒はっきりつけてくれる」と藤原次長。 明るくて見やすいと評判のライトも、独自の配光技術をこの測光室でこだわって開発してきた。 世界が認める技術力と品質力があれば、黒猫が照らす未来も、きっと明るい。

(本紙掲載 2014年3月25日)


サイクルコンピュータの電池のフタも、金型から1つずつ成形。開発時は、3Dプリンタで試作型を作ることも。

ライトの製造工程にて。基板やケースなど製品に必要なパーツはすべてこの工場内で成形され、組み立てられる。

製造工程ではすべての製品に対して、技術者が中間検査を行い、品質を確かめる。従業員に女性が多いのも特徴で、「気力が必要で緻密な仕事は女性向きです」(藤原次長)