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なるほど工場見学
bike factory tour

02自転車用サドルメーカー

text by 杉谷紗香(編集部)
関西エリアに拠点を置く自転車関連の工場をたずねる連載の第2回。 松原市にある自転車用のサドルメーカー「加島サドル製作所」を訪れた。 競輪サドルからママチャリ用まで幅広く扱うが、美しいサドルはすべて、職人の手作業によって生み出されていた。

手足を巧みに使い、サドルの仕上げを行う職人たち。糊が乾かないよう作業部屋の温度は高め。

   

国内で唯一のサドル専門メーカー「加島サドル製作所」は大阪郊外の松原市にある。 近鉄河内松原駅から国道309号を南へ約2km走り、中央環状線の1本北の路地を入ればすぐ。 工場の入口にはママチャリのサドルがずらりと展示されているので、すぐにわかる。

二階建ての工場内は意外にも静か。 1階は出荷用トラックの駐車場と、素材と金型の保管場所。 箔押しに使う大型機械も置かれている。 2階はメインの作業場とオーダーを受け付ける応接室。 使い込まれた機械が並び、サドルの仕上げはここで行われている。 この工場では“世界の中野”も愛用した競輪用サドルからママチャリ用まで、さまざまなサドルを生産しているが、作業場や機械はコンパクトで、機械の種類も想像以上に少なめ。 社長の加島英二郎さんに聞くと、「3人の職人が加工から仕上げまで、ほとんど手作業で行なっているので機械の数は少ないんです。大きな作業台が必要なのは、生地を広げて型抜きをする時くらいです。 その作業台も卓球台で代用していて、いつもはたたんでます」。

早速、製造工程を見せてもらった。 サドルはベース、クッション、トップカバーの3層でできている。 金型に合わせて成形したベースの上に、クッションを重ね、グラインダーでなめらかにしてから、革や人工皮革でできたトップカバーをかけて仕上げる。 最後にレールなどの金具を付ければ完成。 各素材は独自に調合した化学糊で固定していくが、ベースにクッションを重ねる工程は手塗り。 職人の下町さんは「ベースは立体的で、機械では均等に糊付けできない。糊付けした表面が凸凹していると仕上がりにも影響するんです」。 トップカバーをかける作業はペンチやハサミを使い分け、カバーの張り具合を整えながら、指先の力加減だけで美しく仕上げる。

創業は昭和11年。 現在で77年目という老舗だ。 英二郎さんの祖父・加島金吾さんが大阪市西成区にて個人経営で立ち上げ、昭和35年にはJIS認定工場に。 ちなみに、同社を代表する競輪用サドル「FIVE GOLD」は、金吾さんの名前に由来する。 「日本のサドルメーカーは、今ではうち1社だけになってしまったけど、昭和の自転車産業全盛期には関西だけで何十社とあったんですよ。うちも当時はもっと広くて、この工場の周辺一帯が松原工場だった」と英二郎さん。 さらに、二代目社長の加島哲雄さんは、時代を見据えて中国進出を果たした。 「先見の明があったんでしょうね、平成元年にはいち早く天津で生産を始めました。残念なことに、ほかのサドルメーカーは国内の自転車産業の衰退とともにダメになってしまった」(英二郎さん)。

平成17年には英二郎さんが三代目を継いだ。 「実は、家業を継ぐまでは建築の仕事をしていました。しかも、自分も職人として働く必要があったんですが、タイミングの悪いことにベテランの職人さんに教えてもらうことができず…、自分で勉強して作って試してみるしかなかった。本革サドルを革をなめすところから作るのは、生皮のニオイがきつくて、つらい作業です。でも本当に良い物を作ろうと思ったらそこまで手間ひまかけないといけないと学べました」。

現在、革サドルは製造していない。 メインは、競輪用のNJS規格サドルと、オーダーできるレーシングサドル「KASHIMAX」ブランド。 「基本的に受注生産で、カスタムオーダーは1個からでも受け付けています。女性用サドルもありますよ」と英二郎さん。 今年3月からは工場での対面オーダーもスタートするなど、カスタムオーダーには特に意欲的だ。 「お尻の形は人それぞれ。万人受けする商品の開発は難しいけれど、オーダーでその人に合ったサドルを作って自転車生活を楽しんでほしいですね。ものづくりの会社なので1個でも多くのサドルを世に出し続けていきたい」と笑顔で語った。

(本紙掲載 2013年6月14日)


革サドルは創業時から5年前まで製造。「いつかまた、国産の本革サドルを手がけるのが夢です」(英二郎さん)

トップカバーの生地はソファや椅子用と同じ素材。カスタムオーダーでは生地の柄は57色から選べる。表面への刺繍や箔押し、インクジェットプリントにも対応。

社長の加島英二郎さん(中央)と、職人のお二人。「競輪のハードユースにも耐える確かな製品を生み出してます」。