マディソン突撃レポート! no.53 自転車って防災ツール!? 通勤、買い物、フィットネス、そして楽しさ。自転車に乗る理由はたくさんあるけど、そういった日常的な視点とは異なる、「防災訓練」を模した自転車レースがあるのを知ってる? 実は国内外で流行り始めているこのレース、一体どんな内容? マディソンが国内外の防災想定レースをご紹介!

text by マディソン(ライター)

「CMWC 2023 Yokohama」のカーゴバイクレース。災害時に役立つ想定で大型荷物を載せ、最速でゴールを目指す!

ガソリンなど災害時に不足するエネルギー資源が必要なく、路面の悪くなった道を走れて、軽くて、人の力だけで動く。「自転車」は、いざという時にとても便利な“ツール”だ。

2023年6月3日、奇しくも大型台風の影響を受けながらの開催となった「NagoyaLOCO」のメインレース「BIKE TO AID」。3人1組の9チームが参戦し、1時間半のレースで220リットルの水と、20数個の仮想AED&救急キットを運び、8台の自転車タイヤを交換!

今回注目する、「防災訓練」を模した自転車レースは、さまざまな防災グッズを“荷物”にして、決められた場所へ自転車で届けるというルールで、タイムを競い合う。ルールはシンプルなのに、運ぶ荷物がかなり大きかったり、重かったりと予想外だからカーゴバイクが特に有利になってくる。災害状況を再現したチャレンジングなセクションがコース内にある場合も!

私が初めて目撃した防災訓練的な自転車レースは2023年6月3日、名古屋で開催された「NagoyaLOCO」の「BIKE TO AID災害想定レース」。3人1組のチームで指示書に書かれている“荷物”を市内各所のチェックポイントに運び、クリアして速さを競う内容。しかも“荷物”の一つは水だったけど、20リットルもタンクに入れたら重いよ!そういう場面ではやっぱりカーゴバイクが有利だけど、シングルスピードバイクで挑む強者もいた。
 

「NagoyaLOCO」のメインレース「BIKE TO AID」にて。災害が発生した時、頼れるのは自転車だけ!という状況で、自転車が復旧の力になり得ることを証明した。

チェックポイントで空のタンクを渡された後、ライダーたちは「どこで水をくみあげるか」も工夫していて、本当に災害時のような必死さ。急ぎの荷物も“リアル”な感じが伝わる。続いて、チェックポイントに息切れしながら届けられた荷物は、なんと「AED」とペイントされた段ボール=仮想AED!

もちろん現地では誰も倒れていないけど、実際の災害ボランティアってこういう仕事が求められる。災害時は、選択肢が極めて限られるうえ、刻々と変化する状況を読みながら、緊急の問題を解決していくスキルが必要で、レースを通して非常時の雰囲気を実感できた。

ポートランドでの「Disaster Relief Trials 2016」の様子。悪路を想定したライドを行ったり、水を川でくんで運んだり、自転車を活かして市民の防災力をトレーニングする内容。 写真:Kelley Stangl disasterrelieftrials.com

もし、より本格的に防災力をトレーニングしたいなら? 「Disaster Relief Trials(DRT)」に参加するのがおすすめ。DRTは自転車で支援物資を運ぶ障害物レース。2012年にアメリカ・ポートランドで始まって以来、シアトル、メンフィス、バンクーバーなどさまざまな街で実施され、2015年には茨城県つくば市でも行われた。行政機関と協力しながら、防災に関する市民の知識と能力を向上することが目的のイベントだそう。

また最近では、トルコの自転車ボランティア団体「BisiDestek」が、2023年2月に発生したマグニチュード7.8のトルコ・シリア大地震の被災地で、自転車を用いた緊急援助を行ったニュースも。捜索救難活動をさまたげる雑音が出ない自転車は、被災地での適切な移動手段。物資運搬などで働く自転車ボランティアの姿も、心の支えになるよね。

2023年9月に横浜で行われたサイクルメッセンジャーの世界大会「CMWC(Cycle Messenger World Championships)」でも防災をテーマとした荷物を運ぶカーゴバイクレースが実施された。会場ではさまざまな形のカーゴバイクが出走し、小さな前輪の上に大きな台座を備えたOMNIUM、後ろにあるラックとパニアバッグが特徴のSURLY、トレーラー付きの自転車も! ライダーたちが輸送用パレットや重たい段ボールなどを自転車で運ぶのを応援しながら、「もし本当に災害が起きたら?」と想像した。災害支援できるカーゴバイクがもっと身近になってほしいな。
 
紙面掲載日:2024年1月19日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
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