ロッタちゃんは心の中に 映画『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』

text by 足立知子(ライター)

『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』2Kリマスター版監督・脚本ヨハンナ・ハルド/1992年/78分/スウェーデン/配給エデン/シリーズ作『ロッタちゃんはじめてのおつかい』/いずれも、宇都宮ヒカリ座(栃木)、静岡東宝会館(静岡)、京都シネマ(京都)、4月26日よりサロンシネマ(広島)、5月31日よりサツゲキ(北海道)ほか、全国公開中
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映画には時々とんでもなく魅力的なわがまま女子が登場する。『ベティ・ブル』のベティ、『ジョゼと虎と魚たち』のジョゼ、『ペーパー・ムーン』のアディ。今号の表紙で不敵な笑みを浮かべるロッタちゃんもその一人だ。

彼女は生意気で強情で決して空気を読んだりしない。気に入らないことがあるとすぐ癇癪を起こす、ちょっと困った女の子。だけどなぜか憎めなくて、むしろあこがれすら抱いてしまうのはなぜだろう。

もしかしたら誰もがロッタちゃんを心の中に住まわせていて、本当は彼女のように自分に正直に振る舞いたいと思っているからではないだろうか。普段は「いい子にしてなさい」と抑えている心の中のロッタちゃんがスクリーンに飛び出して、やりたい放題やってくれる。その姿が痛快で、愛おしくてたまらないのでは。

雨の日は水たまりでバシャバシャしたい! お薬なんて飲みたくない! 日曜日のごはんがニシンなんてじごくよ!

そんなロッタちゃんの目下の願いは自転車に乗ること。誕生日プレゼントにおねだりしてみるけど、「まだ小さいんだから三輪車で我慢しなさい」とパパにたしなめられる。ロッタちゃんは5歳の誕生日に「私だってもう自転車に乗れるんだから」と三輪車を蹴っ飛ばし、納屋から古い自転車を持ち出して……。

原作は『長くつ下のピッピ』で知られるスウェーデンの国民的作家、アストリッド・リンドグレーン。北欧の美しい自然とカラフルな色彩の中、ロッタちゃんとブタのぬいぐるみバムセ、彼女を取り巻く人々の愉快な日常が描かれる。 © 1992 AB SVENSK FILMINDUSTRI ALL RIGHTS RESERVED 

彼女の冒険は見ていてハラハラするけれど、周りの大人たちは一方的に叱りつけるようなことはしない。きちんと注意しつつ、子どもの目線に立ってその声に耳を傾ける。

スウェーデンは子育てしやすい国だと聞くが、福祉や育児支援の充実に加え、大人の寛容さも大きな理由の一つなのかもしれない。こんな風に育てられたロッタちゃんは、きっと自立したすてきな大人に成長するだろう。

私たちの心の中に住むロッタちゃんも抑えつけてばかりいないで、時には彼女の声に耳を傾け、自分の世界を大切に守れるように、おおらかに育ててあげたい。

紙面掲載日:2024年4月19日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
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