世界の自転車ニュース no.57 人生はまるで自転車。アフリカで感じた心地良い人生の走り方 ザンビア共和国・ムワプラ地域

text & photo by うえやまあつし(旅する写真家)

ザンビアの田舎では、炭を使って調理するのが一般的で、各地の路面で炭が販売されている。自転車に載せきれないほどの炭を積んだ男性が、峠道のてっぺんで炭を売っていた。

ザンビアと聞いて、その場所を地図で正確に示せる日本人はそれほど多くないと思う。同国はアフリカ中南部に位置し、8か国と接する内陸国。日本の2倍ほどの面積に約1,900万人が暮らす。73もの部族があり、各部族の言語のほか、英語が公用語となっている。今回私は、この国で医療の届かないエリアに医療を届ける「NPO法人ロシナンテス」の活動に同行し、撮影を行う目的でザンビアに入った。

走ってくる自転車に手を振り合図をすると、足ブレーキでなめらかに止まってくれた。

ロシナンテスの事務所がある首都ルサカは都会で、ショッピングモールに行くと生活必需品はほぼ揃う。走るクルマの9割近くは日本車、という印象。道路状況が良くないところが多いため、ランドクルーザーやレンジローバーなど四駆の高級車も頻繁に走っている。自転車はというと、数はまばら。古いものが多く、自転車店はルサカに数軒しかない。

一方、ルサカからクルマで2時間ほど離れた、ロシナンテスが活動を行う中央州ムワプラ地域の状況は異なっていた。ひとたび雨が降れば川のような濁流と化す未舗装路が多い状況だが、人口の割には自転車が多い印象。徒歩が移動手段のベースとなっている中で、自転車は移動や運搬手段のための貴重な乗り物として活躍している。農作物や料理に使う炭を市場などに運搬するほか、学校への送迎、病人を診療所へ運ぶ際にも使われているようだ。

自転車の多くは、かつて日本の魚屋や八百屋が行商で使っていたような実用車系。ただ、ブレーキやペダルは外れてしまっているものが多い。クルマが頻繁に通る場所ではないため、徒歩や自転車のペースで暮らしが動いているようにも感じる。のどかな光景だ。

散歩中、目に飛び込んできた壁の落書き。今回は取材がメインのため移動はクルマ。車窓を眺めながら自転車で走りたいと何度思ったことだろう。自分でスピードをコントロールできる自転車はすばらしい。

最終日の前日、ルサカを歩いていて、壁に描かれている文字に目が止まった。“Life islike riding a bicycle. To keep your balance,you must”で壁の文字は終わっているが、この後に“keep moving.”と続く。「人生とは自転車に乗るようなもの。バランスをとるためには、動き続けなくてはいけない」。アインシュタインの言葉だ。この言葉は、人生のバランスをとるには、スピードよりも動き続けることが重要だとも解釈できる。

自転車に乗るように自分で自分の人生を走れると、どんなに心地良いだろう。そんなことを考えるきっかけになったザンビア滞在だった。
 
紙面掲載日:2023年4月28日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
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