世界の自転車ニュース no.58 最先端都市ソウルで2022年に発足! 若きメッセンジャー会社 韓国・ソウル

text by キム・イホ(Gig Courier代表)

Gig Courierの事務所があるのは繁華街・明洞に近いウルチロ。とあるスポーツブランドとの撮影中、事務所の前でのワンシーン。事務所周辺にはさまざまなおいしい食堂が軒を連ねる。

韓国戦争(日本では朝鮮戦争と呼ばれる)後、韓国の経済は短期間で急成長した。廃墟となったソウルは、海外強国の姿をロールモデルにして都市を早急に立て直したが、基本的にクルマ中心の設計が採用された。つまり、自転車のことはほとんど考えられていなかった。数十年が経ち、現在のソウルは広い道路と高層ビルの織りなす光景から“最先端都市”と呼ばれるが、依然としてクルマ中心の街だ。

一方、SNSでの発信を通して、ソウルの自転車文化は「強く」見える。美しい漢江に沿ってまっすぐ伸びたサイクリングロードを走る市民サイクリスト、ソウルの真ん中にそびえた南山と北岳スカイウェイを上り下りするロードレーサーたち。レジャーの面で韓国に自転車文化はしっかりと定着したが、日常はそうじゃない。ソウルの都心部で自転車を普段遣いする人は、海外の他都市と比べて少なく、極めてめずらしい。

「自転車は車道を走ってはならない」という認識が少なからずあるし、威圧的な運転をするドライバーの態度は自転車にとって脅威。それに、自転車道があっても、駐車車両やバイク、歩行者に占領されてしまった風景の中では、楽しく安全に自転車に乗るのは容易ではない。そんなソウルで、過去に自転車メッセンジャーを試みた人はいたが、すぐに消えてしまった。

2022年、最初の事務所の前で。笑顔で写真に収まるのは筆者(Gig Courier代表キム・イホ)。事務所ができる前、僕たちはいつもどこかのコンビニ前で仲間と集まっていた。
Instagram:@gigcourier

日本からソウルに戻った僕が2022年に立ち上げたメッセンジャー会社「Gig Courier(ギグクーリエ)」は、変化に対する渇望と、認識改善への希望を抱いて始めた。健康的な都市の姿は、健康的な自転車人口が作るものだ。東京で3年間、メッセンジャーの業務や文化を学びながら、多様な自転車の可能性を経験した。そのモデルをソウルの環境に合わせて動かしている。

ソウルではバイク便が主な急送サービスであることや、丘が多くて活動エリアが遠く離れている地理的な特徴、そして道路での自転車に対する認識など、さまざまな困難はあるけれど、Gig Courierでは立ち上げから一年強、6人ものメンバーが走っている。結果だけでなく「過程」の重要性を体現した、エコ時代にふさわしい配送手段として、若いメッセンジャーの価値を感じて利用する顧客が存在する。そして今後、さらにメッセンジャーを求める人は多くなるという確信をもって、僕たちは動いている。
 
紙面掲載日:2023年7月28日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
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