マディソン突撃レポート! no.45 福祉国家発の高齢者ライド 年齢を重ねて、自分で自転車を運転できなくなる未来は、すべての人に等しく訪れる。でも、もし実際にそうなっても自転車に乗りたかったら、みんなはどうする? 今回マディソンが取材したのはデンマーク、コペンハーゲン発の慈善活動「Cycling Without Age」。高齢者向けの自転車タクシーサービスで、世界52か国で活動を展開中。どんな活動なのかな?

text by マディソン(ライター)

風を感じて気持ちイイ! すてきな専用自転車Trishawでライドを楽しむ。写真:Jim Koepnick, Cycling Without Age cyclingwithoutage.org

デンマーク発祥の「Cycling Without Age(CWA)」は、老化が進んで自転車で出かけられなくなった方に改めてライドの楽しさを味わってもらう社会活動。

サイクリングに使われるのは人力車のような専用自転車Trishawで、前方の座席に乗客が座り、後方にボランティアのパイロットが乗って、走りながら景色を楽しむ。Trishawには乗客とパイロットが楽に会話できる設計が採用されていて、訪れる街の歴史や思い出話で盛り上がる。

きっかけは、CWAの創立者、Ole Kassowさんが毎日のジテツウで老人ホームの前を行き来していた際に、居住者の姿を見て着想。「ホームですごす高齢者にも自転車に乗ってもらいたい」との想いが募り、2012年にスタートした。

 

LGBTパレード「CopenhagenPride」へもCWAとともに!

最初のうちは自転車で老人ホームを訪ねては「乗りませんか」と誘っていたそうで、「ライドに出かけると気分が良くなる」「髪で風を感じて気持ち良い」と利用者から好評を得た。やがてCWAの想いに共感する人も増え、世界中にチャプターと呼ばれる活動拠点が拡大。2021年12月時点でブラジル、オーストラリア、シンガポールなど52か国に2,700チャプターがある。

地域ごとにニーズや環境は違えど、ミッションは一致していて、それは「ボランティアによる自転車ライドを通して、年齢やさまざまな身体的条件で自転車に乗ることのできない方と、有意義な関係が生みだせる環境を作ること」だ。

2019年、カナダのキャンモアで行われたCWAのサミットにて。アメリカやカナダ、デンマークから参加者が集まり、カナディアンロッキーの絶景を楽しむ大自然ライドへ出かけた。写真:Craig Douce - Banff Canmore Photo Video, Cycling Without Age

CWAは「SDGs」に貢献する活動ということで、近年さらなる注目を集めている。慈善の心と、スローで“ゆとり”のあるアプローチを大切にしていることから、SDGsの17の目標の中でも特に、「3番:すべての人に健康と福祉を」「10番:人や国の不平等をなくそう」「11番:住み続けられるまちづくりを」の3項目に関連している活動といえる。

コロナ禍でも状況を見ながらライドを実施しているチャプターが多いそうで、CWAグローバルコミュニティキャプテンのPernille Bussoneさんは「コロナ禍になってすぐは活動休止したチャプターが多かったし、老人ホームの従業員がパイロットとなって実施した例もありました。いまは、ほとんどのチャプターが活動を再開しています」と語る。

2019年、カナダのキャンモアで行われたCWAのサミットにて。電動アシスト付きの専用自転車でスイスイと。ちなみに、これまでの過去最高齢の乗客は110歳だそう。写真:Craig Douce - Banff Canmore Photo Video, Cycling Without Age

さて、高齢者の多い日本での状況は?というと活動するチャプターはゼロ。候補も残念ながら資金調達段階で止まっている。Trishawの購入金額や輸入コストは一台あたり100万円を優に超え、さらに電動アシストの規格が日本と異なるため国内規格に適応させるのも大変だそう。

それにTrishawは日本の道路交通法では車道を走らねばならず、交通インフラと安全面でも心配がある。公園や自転車道でよく見る車止めも進路を妨害するだろう。

Oleさんのすばらしい発想から生まれたCWAは、いつか日本の道を走れるだろうか。
 
紙面掲載日:2022年1月14日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
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