レポート

Summer2023

no.58

WEB掲載日

2023年9月5日

[コラム] 日本のメッセンジャー史をあらわす「2着のウェア」 メッセンジャーの仕事の魅力、特集で伝わったかな? 体力と知力を駆使する姿がカッコイイ一方で、独自のカルチャーも魅力。ちょっとアウトローでストリートカルチャーのイメージがあるけれど、実は、仲間を想いやる心がとても強いとか。このコラムでは、横浜のメッセンジャー会社・Courio-Cityの代表で、日本のメッセンジャーカルチャーを古くから知る柳川健一さんに取材。歴史を振り返り、「2着のウェア」にまつわるエピソードを語ってもらった。

日本各地を走るメッセンジャー。普段はそれぞれの地域で、それぞれの仕事をしているけど、横のつながりがとても強い。「メッセンジャーという仕事を好きでやっている人が多いからか、仲間意識が強いし、人にやさしいヤツが多いんです」と柳川さん。

日本のメッセンジャー史の中でも、全国のメッセンジャーが一致団結したできごとがあるという。それが、「アメリカ同時多発テロ事件」と「東日本大震災」。未曽有の惨事で苦しむ人のために「2着のウェア」が作られた。

2001年9月11日

「アメリカ同時多発テロ事件」の際に作られたウェア。北は札幌から南は鹿児島まで、全国のメッセンジャー会社のロゴがずらり。ロゴ下には、“the world is yours”のメッセージ。

「ワールドトレードセンターに飛行機が突っ込んだこの日。ショッキングな映像が世界を駆け巡りましたが、あのビルに出入りしていた多くのメッセンジャーが犠牲になったことはあまり知られていません。

事件後も長く混乱が続いたNYでは、現地のメッセンジャーが苦境に陥りました。そんな彼らを救おうと、世界中のメッセンジャーが団結して寄付を募ることになったんです。日本では、賛同するメッセンジャー会社によって、自転車関連展示会への合同ブース出展、チャリティーイベントの実施、各メッセンジャー会社のロゴ入りTシャツの販売などで寄付金を集め、NYへ送りました。

左胸のマークは、マンハッタンの通称"ビッグアップル"に事件の日付が刺さったもの。

この時のTシャツ(写真下)にロゴがプリントされたメッセンジャー会社は9社で、左上から時計回りに、Universal Messengers(札幌)、東海メッセンジャーBb(名古屋)、横浜メッセンジャー(横浜)、京都メッセンジャーKAZE(京都)、B-DASH(大阪)、Courier(東京)、Axis(大阪)、Q-courier(鹿児島)、サイクレックス(東京)。全国のメッセンジャー会社が一緒になって、何かに取り組んだのは、これが初めてだと思います」。

2011年3月11日

「東日本大震災」の際に作られたサイクルジャージを着た、当時のデリバリー風景。  写真:GON

「東日本大震災の当時、被災地の悲惨な状況を伝える報道を見て、体力に自信のあるメッセンジャーこそ、現地でボランティア活動をしよう!という動きが起こりました。

会社の垣根を越えて有志を募り、『MSGRSCRUM』というメッセンジャーによるボランティアチームを結成。毎回10~20名の仲間とともに被災地へ行って、さまざまな作業に従事しました。そのほか、募金を集めて被災地へデリバリーする活動も続けましたね。

左胸に「MSGR SCRUM」のロゴ、右胸に”Hand up Japanese Ladys and Gentlemen”のメッセージ。左肩に日の丸とJAPANの文字が輝く。

肩に“日の丸”があしらわれたサイクルジャージは、東北を応援する気持ちを示し、全国のメッセンジャーの気持ちを一つにつなぐために作ったもの。もちろん『MSGRSCRUM』のロゴも入っています。活動に賛同するメッセンジャーは、毎週月曜にこのウェアを着てデリバリーをしていました」。

「CMWC 2023 Yokohama」は、東日本大震災から10年後の2021年に開催予定だったが、コロナ禍により延期。今年ようやく開催を迎える。実現に向けて全国のメッセンジャーが世代を超えて団結し、イベントには世界中のメッセンジャーも集結。新型コロナウイルスの脅威をくぐり抜けた、メッセンジャーの想いが一つになるビッグイベントで、きっと“3着目”のウェアが生まれるのだろう。
text by 眞田健吾(編集部)
紙面掲載日:2023年7月28日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
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