連載

Spring2024

no.61

WEB掲載日

2025年2月19日

世界の自転車ニュース no.61 R.I.P. #Natenom 自転車アクティビストが道路交通の犠牲になった時 ドイツ・プフォルツハイム

text by 小畑和香子(ライター/フライブルク在住)

2月11日の追悼ライドで事故現場に設置されたNatenomのゴーストバイク。彼のマスコット、ゾウのぬいぐるみとOpenBikeSensorを付けて。
写真:ADFC Köln 

「2024年1月末、ドイツの交通シフトを願う自転車コミュニティに衝撃が走った。全土的に「Natenom」の名で知られた自転車アクティビスト、Andreas Mandalkaが、自宅近くの州道を自転車で走行中、後続の自動車に追突され、その場で亡くなったというのだ。

プフォルツハイム検察庁前で行われた、追悼ライド前の集会。スピーチをした自転車ロビー団体・ADFC連邦理事メンバーは、日常化した自動車の暴力を銃に例え、それを無視し続ける検察に対し、「公共の関心はここにある!」と訴えた。写真:ADFC Köln

彼は長年に渡り、特に州道における自転車利用者の安全性向上、そして自転車利用者が自動車ドライバーと同様に尊重される権利を求め、彼の地元であるドイツ南西部の街・プフォルツハイムで活動していた。具体的には、自転車走行中の自身に対するドライバーの行為を撮影し、ブログやSNSに公開した。

また、「OpenBikeSensor」を用いて自動車に追い越される際の側方間隔を測定し、管轄の警察にそのデータを持ち込んで追い越し時の危険性を繰り返し訴えた。側方間隔は、市街地では1.5m、郊外では2.0m維持することがドライバーに義務付けられている。

しかし、これらが守られないどころか逆に脅迫を受け、警察と検察はクルマ側の視点に偏った判断をする現実があることを、彼は自転車コミュニティに共有し、世間に知らせていた。
彼の地元クリティカルマスのアカウントによって明かされた訃報に、コミュニティは悲しみ、怒り、追悼文を書き、SNSのプロフィール写真をNatenomのアイコンに使われていたゾウのロゴに変えた。

さらに、それぞれの街で追悼ライドが行われ、全国紙を含めた各メディアが一連のできごとを報じた。そして彼が犠牲となってから2週目の週末には、事故現場に白く塗装された「ゴーストバイク」を設置する追悼ライドが企画、実行された。

アプリ「Critical Maps」は本来、ルートを定めないクリティカルマスへの途中参加を容易にするために使われる。2月11日にはコメント欄に「ろうそく」の絵文字があふれた。

2月11日の午後1時。全土から事故現場に集まった500人を越える参加者と、ドイツ各地から「Critical Maps」のアプリ上で彼を弔う人々は共同で黙祷を捧げた。自転車利用者が道路交通の犠牲となるたび、その事実を風化させず状況改善を訴えるため、(遺族の同意がある場合に)市民有志はゴーストバイクの設置を続けている。

しかし、ここまで規模の大きな動きがかつてあっただろうか。生前、自身に“もしものこと”があれば、それを利用してほしいと願っていたNatenomの遺志は、私たちの中に灯っている。道路交通を少しでもヴィジョン・ゼロ―死亡事故のない世界に近づけるために。

#Stopkillingcyclists
 
紙面掲載日:2024年4月19日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
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