元祖ホネホネロック! ホセ・グアダルーペ・ポサダ『骸骨の自転車乗り』

text by 嶋崎イズル(メッセンジャー・印刷家)

ホセ・グアダルーペ・ポサダ『骸骨の自転車乗り』
1891年 メトロポリタン美術館蔵 Gift of Jean Charlot, 1930

19世紀後半~20世紀初頭の独裁政権下で、民衆から圧倒的に支持されたポサダ。
国内では名古屋市美術館でポサダの作品が300点以上コレクションされている。

自転車は、走行を目的とした部品で構成されたシンプルな乗りものです。最小限の部品を組み合わせた、いわば骨組みだけで走っているような乗りもの。そう、「骨組み」なのです。自転車の設計情報を意味する「フレームスケルトン」という言葉もあるぐらいですから。

この作品で、その「骨組みのような乗りもの」にまたがってレースをするのは人間の骨格、いわゆるガイコツ。骨だけなのにとてもパワフルに見えるから不思議です。自転車の描写はなんだかおかしなことになっていて、それがさらにユーモラスな印象を与えます。

この風刺版画『骸骨の自転車乗り』が作られたのは、まだツール・ド・フランスすら始まっていない1890年代、自転車が現在の形になりたての頃。実物も写真も手に入れづらかった時代に、作者が想像や記憶をもとに描いたのだと推測します。

作者はホセ・グアダルーペ・ポサダ(José Guadalupe Posada/1852–1913)、メキシコの版画家・風刺画家です。メキシコの伝統的なお祭り「死者の日」によく登場する、華やかな帽子をかぶったガイコツの貴婦人「カトリーナ」の作者としても世界的に知られています。

ポサダはガイコツを描いた版画を数多く作っていて、彼の手にかかれば貴婦人も、革命家も、独裁者も、庶民もみな等しくガイコツになるのです。ちなみに後年、彼はほかの作品にとても美しいダルマ型自転車を描いていたりもします。

José Guadalupe Posada《Broadsid: on recto skeletons riding bicycles; on verso skeletons buying and selling printed images etc》(1895)
(C) The Elisha Whittelsey Collection, The Elisha Whittelsey Fund, 1946

“一人の市民”として生涯制作し続けたポサダにとって大切だったのは、権力に対する庶民の視点でした。『骸骨の自転車乗り』で自転車レースをしているのはメキシコの新聞社たち。それぞれに主張と支持基盤を持った彼らをおもしろおかしく描いたポサダが、一番ジャーナリスティックだったのです。

かつて大江健三郎はポサダの作品について、「危機を直視する眼について教え、かつ陽気なその乗り越え方も暗示するようだ」と書いています(『ホセ・グァダルーペ・ポサダ展 骸骨の舞踏』名古屋市美術館編/1998年)。

対立する意見のいずれにも捉われずにその危機を見つめ、陽気に乗り越える方法を庶民に届けたポサダは真のロックンローラーですね。

紙面掲載日:2024年7月19日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
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