インタビュー 映画監督・山崎エマさん
今号表紙で紹介した映画『モンキービジネスおさるのジョージ著者の大冒険』の監督、山崎エマさんへのインタビュー(つづき)。ここでは、ドキュメンタリー映画を製作する上で大切にしている想い、これまでに手掛けた3本の長編作品と作品に欠かせない“自転車”のエピソードを伺った。

▶︎山崎監督へのインタビュー〈前編〉を掲載した表紙コラム「手作りの自転車で逃げた日」はこちらからご覧いただけます

profile 山崎エマ / Ema Ryan Yamazaki
神戸に生まれ、東京を拠点とするドキュメンタリー監督。日本とイギリスの血を引き、ニューヨークにもルーツを持つ。高校野球や小学校教育といった題材を通じ、日本社会の中で育まれた感性と、多文化環境で培った視点を重ね合わせ、独自の視点でドキュメンタリー製作を行う。左の写真はインタビュー冒頭でもふれた、山崎監督のホームページのメイン画像にも使われている大切な自転車写真。
www.emaexplorations.com

C
cycle編集部
Y
山崎エマさん

『モンキービジネスおさるのジョージ著者の大冒険』(2018年)
絵本『ひとまねこざる』と『おさるのジョージ』シリーズの生みの親、レイ夫妻が戦時下で経験した波乱万丈な人生を綴る。山崎監督の長編ドキュメンタリー第一作。
http://monkeybusiness.espace-sarou.com/

Cインタビュー前に山崎監督のホームページを拝見したら自転車の写真が大きく使われていて、びっくりしました。

Y自転車、日頃からよく乗っているんですよ。あの写真は、パリから130kmほど離れたオルレアンの街まで、レイ夫妻が実際に自転車で逃げた道をたどるロケ番組を制作した時の一枚なんです。

Cそうなんですね! 映画の避難シーンではタンデム自転車に二人で乗ろうとして、コケてしまった妻のマーガレットが「こんなの無理!」って夫のハンスに言い放つシーンがありました。それで1人1台の自転車をハンスが手作りして何とか避難するわけですが、二人のキャラクターの違いを象徴するシーンだなと感じました。

Y確かに。レイ夫妻って、運命共同体のようなカップルなんです。すべての作品を二人三脚で作り上げていますし、ナチス侵攻から避難する時の荷物に忍ばせた『おさるのジョージ』第1作の未発表原稿も二人の“運”が味方して、守り抜くことができた。彼らの姿勢にはどんな時も“創意工夫”で乗り越えるジョージの物語の根っこがあるように感じます。

Cところで、山崎監督にとってこの映画は長編ドキュメンタリー初監督なんですね。

Yはい、映画業界でキャリアをスタートし、ドキュメンタリー作品の編集マンとしてニューヨークを拠点に活動していた頃、このストーリーと出会ったんです。長編監督作品を作っていこうとした時、私自身が夢中になれる題材を探す中で相談した友人の一人から、レイ夫妻の波瀾万丈な物語を教えてもらい、何という劇的なストーリーだ!とびっくりして。「既に映画化されているだろう」と検索したら誰も題材にしていなかった。

Cすごい流れ!

Yそれで長編製作を決めました。製作中も、絵本『戦争をくぐりぬけたおさるのジョージ―作者レイ夫妻の長い旅』を書いたルイーズ・ボーデンさんや、レイ財団の信頼を得ることができたのは大きかった。そして映画製作を通して自分自身、「レイ夫妻のようになりたい」と思うことができたし、私の人生の軸になる物語と出会えて幸せでした。

『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』(2020年)
「夏の甲子園」第100回大会へ挑む指導者と球児たちへ、1年間に渡る長期取材を敢行したドキュメンタリー映画。高校野球を“日本社会の縮図”と位置づけ、時代の変化をも切り取った。
koshien-movie.com

『小学校~それは小さな社会~』(2023年)
東京郊外にある児童数が約1000名の小学校が舞台のドキュメンタリー映画。150日間の撮影を経て、日本の教育制度を通じて子どもたちが社会性を育んでいくプロセスを描いた。
shogakko-film.com

C現在までに3本の長編映画を製作されています。今後、挑戦したいことは?

Y高校野球、小学校と日本の文化をテーマにした長編シリーズは三部作にしたいと考えていて、次の題材を探している最中です。自分の作品には、“エマカット”と呼ばれる自転車シーンを必ず入れるのがこだわり。次はどんなエマカットを撮ることになるのか、今から楽しみです。

interview & text by 杉谷紗香(cycle 編集部)
紙面掲載日:2025年7月24日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
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