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Spring2021

no.49

WEB掲載日

2021年7月21日

作家の名文にラーメン探訪 この春は読むサイクリング! 「編集部が気になる話題の自転車本」 まだまだステイホーム気分な皆さま、この春は本の中でサイクリングを楽しんでみては。気軽に読めて、思わずわくわくするような、自転車の魅力がたっぷり詰まった2冊をどうぞ。

明治の文豪もあの小説家も、自転車がお好き

『自転車に乗って』アウトドアと文藝 角田光代、柴田元幸、夏目漱石、萩原朔太郎、真鍋博、三浦しをん 他、著 河出書房新社刊 1,870円(税込)

まずは、小説、エッセイ、詩、漫画など、自転車にまつわるさまざまなスタイルの作品が集録された短編集を。
英国で自転車の練習に悪戦苦闘する夏目漱石に、還暦を過ぎ、お下がりのロードバイクでスーパーへ買い物に行く群ようこのお母さん。中学生時代の角田光代は、自転車事故の加害者に仕立てあげられ、新美南吉が描く少年は、自転車が買ってもらえず、友達の自転車を走って追いかける…。思わずクスッと笑ってしまうようなエピソードから、ちょっと切なくなる物語まで、自転車がときに主役として、ときには大事な小道具として描かれる。
過去には憧れの乗りものだったかと思えば、「女だてらにそんなモノに乗るなんて」と言われた時代もあり、そんな自転車をめぐる価値観の変化が読み取れるのも興味深い。
どの文章も短く、気の向くままどこから読んでも楽しめる、そしていつも身近に置いておきたい、まさに自転車のようなフレンドリーな一冊。

自転車で懐かしのラーメンを探す冒険記

『自転車お宝ラーメン紀行』わたしの旅ブックス 石田ゆうすけ著 産業編集センター刊 1,210円(税込)

自転車で世界一周し、『行かずに死ねるか!』『洗面器でヤギごはん』などのベストセラーを生んだエッセイストの最新刊。今回はぐっと身近に、東京のラーメン探訪記だ。彼が目指すのは流行りの行列店ではなく、昔ながらの素朴な中華そば屋。紙の地図とコンパスをお供に、ガード下をくぐり、路地裏へ迷い込む。途中、昭和な喫茶店や銭湯に入り、気になるものがあれば、自転車を停めて観察する。「スマホを持っていない僕の“ナビ”は、地元住民の皆様だ」(本文より)と、出会った人々と積極的にコミュニケーションを楽しみ、その会話を通して街を知る。そんな自転車散策の様子が、小気味良い文章でつづられている。地元の阿佐ヶ谷から永代橋〜浅草橋、笹塚、雑司が谷…とお宝を求めて走る、走る。そうして出合ったラーメンの描写がとにかくおいしそう! スープの香り、麺をすする音、その場の空気感まで臨場感たっぷりに描かれ、「そのラーメン、いま食べたい!」と思わず叫びたくなるに違いない。著者をまねして、ご近所を自転車探検してみるのも楽しそう! 感染症対策は万全に。
text by 足立知子(編集部)
紙面掲載日:2021年4月23日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
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