表紙コラム

Winter2022

no.52

WEB掲載日

2022年3月22日

北国の夏の納税者たち 「青森 1950–1962 工藤正市写真集」

text by 塚村真美(編集者)

写真家の工藤正市は1929年(昭和4年)、青森市に生まれ、2014年に84歳で亡くなった。
没後、家族が発見した膨大な未発表写真をInstagramで発表するや、世界的な反響を呼ぶように。
写真集にはこの写真の撮影地・古川跨線橋ほか、青森市街の撮影ポイントを示す地図も掲載。
©shoichi_kudo_aomori   Instagram @shoichi_kudo_aomori

「跨線橋の交通量は県下随一であるといわれる。バス、トラック、ハイヤー、その間をぬって、悠々と歩いている荷馬車。都会では近頃めったにお目にかかれない乗合馬車が近在に住む農民のもっとも手近な足として登場するのもこの橋だ」。

この写真を撮影した工藤正市は1955年11月号の『日本カメラ』にそう書いた(『青森 1950–1962 工藤正市写真集』みすず書房)。撮影地は、青森駅の近くの「古川跨線橋」。東北、奥羽両本線の幅員100mをこえる操車ガードをまたいで、旧市街と新市街を結び、農村へつながる主要ルート、との記述もある。道路は国道7号だ。

ためしにGoogle Mapsで位置を確認、ストリートビューで撮影地付近から同方向を見てみた。道路を歩く人は誰もおらず、クルマだけが行き交っている。また、跨線橋上の様子は、国土交通省の「青森県道路情報 定点観測カメラ」でライブ映像が確認できる。

坂道なので自転車で手前に向かってくる人は立ちこぎ気味。リヤカーのお兄さんは荷物が重いのだろう、押し歩いている。右端の下駄履きの人から二人目は原動機付自転車か。
  自転車のハンドル部には皆、プレートを付けている。これは「鑑札」で、今でいうナンバープレートのようなもの。「自転車税」を納めた際に発行されたそうだ。1940年「自転車税」「荷車税」が市町村税として定められ、1954年 に統合され「自転車荷車税」となり、1958年に 廃止されて「軽自動車税」ができたそう。

つまり、ここに写っている自転車乗り、荷馬車の人は「自転車荷車税」を払っている人たちというわけ。橋の上でカメラを構えながら「お疲れさま」と言ってるような写真。
 

『青森 1950–1962 工藤正市写真集』 工藤正市 著 3,960円 税込(みすず書房)

昭和30年代、戦後の青森で生きる人々を捉えた “知られざる”写真を一挙366点収録。モータリゼーション以前、自転車や荷馬車が道路の主役だった時代の素朴でたくましい風景が街、工場、漁村、里山などテーマ別に構成されている。

紙面掲載日:2022年1月14日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
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