インタビュー

Winter2023

no.56

WEB掲載日

2023年3月20日

インタビュー 安達茉莉子さん(作家・文筆家)
「好きそうな本があったよ」と自転車つながりではない友人が教えてくれた一冊の本。それが、安達茉莉子さんによる自転車エッセイ集『臆病者の自転車生活』だった。本の帯にあったキャッチコピー、“さよなら、「繊細すぎ」のわたし!”も心に響く。著者の安達さんってどんな人?生活を大きく変えた自転車や、ロードバイクと旅への想いなどを聞いた。

北海道、苫小牧・支笏湖へ!相棒のロードバイク、Specialized「Tarmac」と海を越えて。写真:安達茉莉子

始まりは、電動アシスト自転車

C
cycle編集部
A
安達茉莉子さん

C安達さんが自転車に乗り始めたきっかけは、何でしたか?

A最初は電動アシスト自転車でした。横浜の坂の上に住んでいたので、自転車のある暮らしができるなんて考えてもみなかったけど、ひょんなことから借りて乗るきっかけを得て、その力強さに驚いたんですね。生活から飛び出て、未知の世界につなげてくれるような存在だな、って。

C 安達さんの『臆病者の自転車生活』の中でも、「あくまで、私が漕げばそれを手伝ってくれる。自由意志を、尊重されている......」と、その時の感動を綴っていましたね。

Aそうなんです。自転車を必要としたことは人生で一度もなかったのに、2021年、その偶然を機に、電動アシスト自転車を買いました。いつでも何かにおびえていた生活が一変して、自転車に乗ることを通して、自分の内面から強くなっていった実感があります。

C横浜で自転車生活を始めて、どんなところを走りましたか?

A海が好きなので、まずは海を目指しました。市内のみなとみらいは好きで良く行きましたし、すっかり自転車にハマってからは、横浜から輪行せずに自走で行ける金沢八景や鎌倉まで、片道20~30kmを友人と走ったりして。ただ、自転車で走ることが楽しくなってくると「もっと遠くへ行ってみたい」という気持ちをおさえきれなくなって、電動アシスト自転車を買って1か月も経っていないのに、ロードバイクを探し始めました。

 

走りたい――。「思い」が起こす変化

最初の大冒険は横浜から真鶴へ、神奈川県内で往復150kmの旅。雨のライドの洗礼も。写真:安達茉莉子

C1か月で!?(笑)変化の勢いがすごいですね。自転車は、すぐに見つかりました?

A実は、本格的に探し始めて10日もしないうちに奇跡的にめぐり合いました。当時はコロナ禍の影響で、新車は半年ほど納車待ちという状況で。すぐにでも乗りたい私は、中古も視野に入れて探していたら、自転車店で働く友人からSpecialized製のロードバイクを中古で譲ってもらえることになったんです!その時ばかりは、「自転車の神様が見ていてくれた!」と思わずにはいられませんでした。

Cすごい!ロードバイク生活で大きく変わったことは何でしょうか?

A電動アシスト自転車との速度の違いを、一番大きく感じましたね。ロードバイクの方が断然楽なので、乗ること自体が気持ち良くなりました。でも、私にとっては、電動アシスト自転車を買っていなかったら、ロードバイクに乗ることはなかったと思います。
ロードバイクにあこがれたのは、自転車のことを勉強しようと読み始めた漫画『弱虫ペダル』の影響も大きいです。作者の渡辺航先生のように、自分の体験を物語の中で描写して社会に還元する作家に強いあこがれがあるんですが、『弱虫ペダル』でも高校生たちの人生を描きながら、内面や根底にあるものにもしっかり迫っているのがすばらしいな、と。

Cなるほど。安達さんのサイクリングにも『弱虫ペダル』の影響はありましたか?

A「自転車を好きでいるために」というセリフが出てくるシーンが特に印象に残っています。私自身も自転車が大好きになって、北海道で一人自転車旅をするまでになりましたが、どんなに楽しくても無意識下でしんどさが積み重なって、心は「また行きたい」と思っても、体は「大変なこと、したくない」と感じることも。ずっと好きでいるためには「好きでいるかを問う」のが大事で、“好き”のためには休憩も必要だと思えるようになりました。

C臆病者を旅人に変えた原動力は“自転車が好き”という気持ち、というエピソードに勇気づけられました。ありがとうございました!

 

話を聞いた人安達茉莉子さん

作家、文筆家。大分県日田市出身。東京外国語大学英語専攻卒業、サセックス大学開発学研究所開発学修士課程修了。政府機関での勤務、限界集落での生活、留学などさまざまな組織や場所での経験を経て、言葉と絵による作品発表・エッセイ執筆を行う。
mariobooks.com

『臆病者の自転車生活』 安達茉莉子 著 
1,760円税込(亜紀書房)

www.akishobo.com
 

text by 杉谷紗香(cycle編集部)
紙面掲載日:2023年1月20日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
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