レポート

Winter2024

no.60

WEB掲載日

2024年2月26日

知られざる“推し”に共感! 市民目線のおすすめMAP ワークショップ「つくってつながるみんなの推しマップ」

2023年11月11日(土)・18日(土)・25日(土)・26日(日) at 長野県
主催/ぐるっと巡ろう!塩尻・山形・朝日サイクルツーリズム推進協議会

2023年8月の視察で見つけた塩尻・山形・朝日の景色。塩尻の平出遺跡付近。ワイン用ブドウ畑でサイクリング!

見落としがちな景色を自転車で「再発見」

自転車マップは、初めて訪れる街をより深く知ったり、旅のプランを立てたりするのに役立つ必須アイテム。ただ、旅先で何気なく手に取ったマップをユーザー目線で見ると、「もっとこんな情報が知りたいな」と、物足りなさを感じたことがある人も多いはず。

2023年8月の視察で見つけた塩尻・山形・朝日の景色。洗馬宿付近。実は縄文時代から変わらない景色と聞いて驚いた。

史跡や名所を並べただけのマップではなく、「地元の人しか知らない見どころが詰まったマップ」を市民目線で作れたら―と、長野県内で2023年11月に開催されたのが、マップ作りに特化したワークショップ「つくってつながるみんなの推しマップ」だ。

ワークショップの舞台となったのは中信地方の塩尻市、朝日村、山形村の1市2村。北に松本、東に諏訪という2つの観光地にはさまれ、観光客に“素通り”されがちなことが地域の課題となっている

2023年8月の視察で見つけた塩尻・山形・朝日の景色。木彫りの技が見事な、朝日村の光輪寺薬師堂。

「環境に惹かれて移住する人も多く、生活者に近い目線で楽しんでほしい」と語るのは、塩尻在住のサイクリストで、ワークショップを企画・主催した「ぐるっと巡ろう!塩尻・山形・朝日サイクルツーリズム推進協議会」の岩佐岳仙さん。

「塩尻は明治期からブドウの栽培が盛んな“ワインとぶどうのまち”。また、塩尻に隣接する朝日村、山形村を含めた一帯には道祖神が点在し、そばの里としても知られるなど、見どころも多い。ただし、エリア内の移動手段がクルマ中心で、何気ない景色は見落とされてしまうのが課題でした。

そこで推進協議会では昨年8月からシェアサイクルをエリア内で始め、地元の方やツーリストが自転車移動を選んで、クルマよりのんびり周遊できるようにしました。インフラ整備の次のステップとして実施する今回のワークショップは、自転車で訪れたくなる地域の魅力を掘り起こすのが狙いです」と話す。

街の「解像度」をあげて推しを見つける

11月の週末、2日間にわたって各市村で実施されたワークショップは、マップ作りに必要な知識を身につける「レクチャー」と、実際にフィールドワークやマップ制作を行う「実習」の2本立て。1日目は「インプット&探検」、2日目は「マップ作り」で、実践しながら学びを深めていった。

ワークショップ1日目に学んだ「推しの見つけ方」と「情報の伝え方」を実践。配布された白地図に、参加者それぞれの「推し」を書き込んだふせんを貼ってマップづくり。

レクチャーの講師としてcycle編集部が参加することになり、8月の現地フィールドワークを経て、開催に向けて準備を進めた。そのプロセスで大切にしたのは、「暮らす人が主体となって見つけた、街の“推し”を発信できるように」ということ。

ワークショップ1日目は、街を観察する人の“解像度”をあげることを目標にレクチャーを行った。地元の良いところは、長く住むほどに気づきにくくなるけれど、「街の見どころ」イコール「観光名所」ではない。レクチャーでは一見すると何もない里山の写真を例に、「この景色は縄文時代からほぼ変わってないと聞くと、どう感じる?」と解説。五感を通して発見する細部のおもしろさや、立ち止まりやすい自転車的な移動速度でこそ見つかる魅力などを参加者に伝えた。

2日間のワークショップで「推しマップ」完成! 塩尻開催時は、会場の「えんぱーく」展望テラスにて記念写真。

1日目のメインは「探検」と称したフィールドワーク。30分ほど会場周辺を散策し、「川の小石」「きれいな大木」「通路からの眺め」といったものから地元の定番「道祖神」「山の景色」まで、見つけた“推し”を全員で共有した。その中からマップのテーマ選定を行い、追加の探検を宿題とした。

2日目は、いよいよマップ作り!前回決めたテーマに沿って各自の「推しマップ」を2時間で作成した。山形村のテーマは「おいしい/かわいい/色」、朝日村のテーマは「道/花/写真」、塩尻市のテーマは「ぶどうと郷土料理/デートスポット/えん(塩・円・縁)」とそれぞれの地域性が垣間見える内容。推しポイントの魅力を短い言葉で的確に伝えるため、紹介文の書き方のレクチャーも行い、地図のクオリティも高めていった。
3市村の19人が作成した地図は計23枚!「走りたくなる一本道」「ラーメン店の絶品ジェラート」「山中君ちのリンゴ畑」など知られざる推し情報が満載で、マップ発表の時間も盛り上がった。

参加者からは「毎日見ている景色の魅力に気づいて新鮮」「ほかの推しマップを参考に街をめぐりたい」「クルマだと気づかない“音”も発見できた」との声があがり、地図作りを通して街のおもしろさを再発見し、共感しあう時間となった。
text & photo by 杉谷紗香(cycle編集部)
紙面掲載日:2024年1月19日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
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