サイクルおすすめBOOK メッセンジャーの葛藤を描く 実力派による芥川賞受賞作 「ブラックボックス」 www.kodansha.co.jp

text by 嶋崎イズル(メッセンジャー/Daisy Messenger)

カルチャーとかコミュニティとかいう前に、いま稼げる、ただそれだけの「メッセンジャー」という仕事。その通り。だけど、僕の中の何かが、そうじゃないと疼く。

主人公のサクマは28歳の男性。バイクはキャノンデールCAAD9。営業所がある新宿周辺で稼働し、彼女と暮らす三鷹の借家から自転車で通う。僕たちと変わらないメッセンジャーだ。物語はその多くが経験する、クルマとの事故から始まる。事故直後にヘルプで来るメッセンジャーとの事務的だが温度のあるやりとり、雨の日のレインウェアのあの嫌な感じ、好んでそうしているわけではないコンビニ補給。そうしたメッセンジャーの日常がちゃんと描かれる。
 

「ブラックボックス」 砂川文次 著 1,705円 税込 (講談社)

自身の中にある得体の知れない何かに抗えず転々とした末にメッセンジャーにたどり着いたサクマだったが、事件を起こして刑務所へ。そこで自分の中の何かを見定めようとするうち、ある言葉と出会う。自らと葛藤する彼に、戦争と産業に帰結する人間を見てしまう。積み重ねるべき変化と出会いはたくさんあったはず。僕がまだメッセンジャーでいる理由もそこにある。まだ、諦めたくない。
紙面掲載日:2022年4月28日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
関連記事