連載

Spring2022

no.53

WEB掲載日

2022年7月5日

世界の自転車ニュース no.53 どこでもないどこかへ。冬のニューヨークで青い自転車に乗ってみた 「アメリカ・ニューヨーク」

text & photo by 田中和人(アーティスト)

バイクシェアCiti Bikeでマンハッタンを走る。レンタルステーションが数ブロックごとにあり、必ず近くに見つけられるので、借りるのも返すのもストレスがない。レンタル手続きもスマートフォンのアプリで完結できて簡単。

デイヴィッド・バーンのライブ映画『アメリカン・ユートピア』(2021年)のエンドロールで、ライブを終えたバーンがメンバーと共に、劇場から自転車に乗ってニューヨークの街をすり抜けながら家に帰るシーンがある。そのシーンに何だかとても感動して、すぐに新しい自転車を買った。ママチャリを卒業して、Trek社のクロスバイクを手に入れた僕は、どこへ行くにも自転車を使うようになった。

去年の冬、僕は久しぶりにニューヨークを訪れた。冬のニューヨークが好きだ。キリッとしてふれることができそうなくらいシャープなニューヨークの空気と光が、人々や建物をくっきりと浮かび上がらせる。
 

友人とCiti Bikeでセントラルパークを自転車で散歩。


そんな街中でよく目にしたのが青い自転車。Citi Bikeのレンタルステーションが街の至るところにできていた。早速、友達と一緒にCiti Bikeを借りてみた。ウェストビレッジで朝食をとった後、ハドソン川沿いを北上すると、ミッドタウンはあっという間。ステーションに自転車を返却し用事を済ませたら、また近くでCiti Bikeをゲットする。

セントラルパークでサイクリングを楽しみ、五番街のティファニーを横目にマンハッタンのど真ん中を走り抜ける。風を感じながら街の大きさをダイレクトかつ、親密に感じながら移動する感覚は、自転車でしか味わえない特別なものだ。

 
今回の旅のハイライト、それは、ブロードウェイのセント・ジェームス劇場で「アメリカン・ユートピア」を生で見ること。しかも最前列の席をとった。幕が開く。バーンとバンドメンバーが手の届く近さでパフォーマンスを繰り広げる。生歌とバンドの重厚かつ軽快なサウンドを全身に浴びながら、ダイレクトな生々しさに打たれた。バーンの瞳の中の光は、まるでニューヨークの冬の光のように美しかった。幕が閉まり、劇場の外に出る。冷たい風に吹かれながら熱くなった身体と心をクールダウンしていると、映画のあのシーンよろしく、裏口から白髪のバーンが現れて自転車でマンハッタンの夜に消えていった。

セント・ジェームス劇場で「アメリカン・ユートピア」を生鑑賞。バーンとニューヨークと自転車。何てすてきなコンビネーションなんだろう!

僕はもっと自転車に乗りたい。ニューヨークだけでなく、世界中で自転車に乗ってみたい。そして『アメリカン・ユートピア』のラストを飾る曲「Road to Nowhere」みたいに、“どこでもないどこか”へ向かって、道を間違えながらも、何とか進んでいきたい。

 
紙面掲載日:2022年4月28日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
関連記事