連載

Summer2022

no.54

WEB掲載日

2022年11月15日

世界の自転車ニュース no.54 BMXとともに中東へ。2年越しに肌で感じた世界最高峰の舞台 「サウジアラビア・ジッダ」

text by 吉田尚生(BMXアーティスト)

『FUZION』公演の様子。舞台はグループで行うパフォーマンスが多く、一人で演じるソロアクトは重要な役割。さすがにプレッシャーを感じたが、約5分のパフォーマンスを演じきった。この緊張感と気持ち良さこそが、やっぱりステージに立つ魅力! 写真:Marie-Andrée Lemire

2022年4月から6月上旬までの約2か月間、サウジアラビア第2の都市、ジッダに滞在した。その理由は、BMXアーティストとしてシルク・ドゥ・ソレイユの舞台『FUZION』でパフォーマンスするため。僕にとって2度目となるシルク・ドゥ・ソレイユでの舞台だ。
 

『FUZION』公演の舞台裏にて。 写真:Marie-Andrée Lemire


1度目は、2018年から約2年に渡って参加した『VOLTA』のワールドツアー。世界各国を巡って公演していたが、新型コロナウイルスのパンデミックを受けてツアーが中止に。苦い思いで帰国した僕にとって、今回の舞台は待ちに待ったものだった。

『FUZION』は劇団創設者の2人を主人公にした演目。シルク・ドゥ・ソレイユを代表する作品をコラージュ的に織り込みながら再構築したもので、劇団の歴史を伝えるようなストーリーとなっている。また、ラマダン(断食月)が明けたことを祝う国を挙げた祭り「ジェッダ・シーズン2022」の一環として公演されることもあり、僕の知る限りではシルク・ドゥ・ソレイユで最大規模のステージだ。
準備がスタートしたのは本番の約8か月前。世界中のパフォーマーが出演する舞台だが、コロナ禍によって顔を合わせた練習はできない。パフォーマンスを動画で撮影してフィードバックを得るなど、オンラインを通じて練習を重ねた。4月上旬、サウジアラビアに出演者が集結。そこからたった3週間でパフォーマンス、照明、音楽などを合わせ、急ピッチで本番の舞台を作り上げていった。僕が演じるのはいたずら好きなカエル。舞台を盛り上げる役であり、一人で演じるソロアクトだ。コミカルなキャラもソロアクトも初挑戦なだけに緊張が高まった。
 

中東の民族衣装、トーブをまとって愛車とともに。オフの日に訪れた砂漠にて。写真: Nao.Yoshida


そして、いよいよ舞台初日の本番。約3,000名が見守るステージへBMXにまたがって飛び出した。スポットライトを浴び、観客の視線が僕一人に集まる。練習を重ねたパフォーマンスを披露し、歓声を耳にした瞬間のゾクゾク感! やっとこの舞台に戻ってこれた……という感動で胸がいっぱいになった。

6月上旬、約1か月間の公演を終えて日本へ帰国。振り返ると、手応えよりも「もっとこうした方が良かった」と反省ばかり。1か月じゃ足りない、もっともっと乗りたかった! BMXが僕を世界へ連れ出してくれる。次はどんな景色を見せてくれるだろう。
 
 
紙面掲載日:2022年7月28日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
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