表紙コラム

Winter2023

no.56

WEB掲載日

2022年3月30日

心の中の親友“E.T.” 「Kuwahara『E.T.40』」

text by 山下浩平 (mountain mountain)

映画 『E.T.』に登場したBMXは大阪の「Kuwahara」製。映画公開40周年を記念して2022年に発売された「E.T.40」は、製品ポスターも当時のイメージを忠実に再現。劇中のBMXに魅了された、40年前の記憶がフラッシュバックすること、間違いなし!
協力:Kuwahara Bike Works www.kuwahara-bike.com
©Universal City Studios LLC and Amblin Entertainment, Inc. All Rights Reserved.

当時11才の僕は、この映画の公開前、少年誌に掲載された奇妙な生き物の姿に強く惹かれていた。それは、肌色でしわだらけの「TheExtra-Terrestrial(地球圏外生物)」、映画のタイトルの宇宙人だ。そして、地球にたった一人取り残された宇宙人を助けて友情を育む、寂しげな少年エリオット。僕は彼らの物語に夢中になり、「僕もE.T.を助けて友だちになりたい」と願ったのだった。数少ない友人を誘い、「E.T.をまもる会」を結成し、なめ猫を模した会員証を作った。“E.T.の救済”が会の目的のはずだったが、実際の活動は近所の山での妄想遊び。その頃はE.T.の絵も描きまくった。
劇中、ぴょんぴょんと宙を飛び跳ね、大人たちを煙に巻くBMXにもあこがれた。店頭には2種のモデルが存在して、僕は安価な方(けれど少年にはあまりにも高価な)を買うためにアルバイトをしてお金を貯めた。そして映画が忘れられてきた頃にやっとあこがれのBMXを手にすることができた。早速カゴを付ける計画を立てたが、その自転車はすぐに盗まれて僕の元に二度と戻ることはなかった。僕はひどく落胆した。でも、そんな時でもずっと、E.T.は僕にとって大切な存在だった。

その後、20代の多くの時間を、アメリカでアンティークの買い付けをしていた僕は、数多くのE.T.グッズを手に入れた。けれど結局いまも一番に大切にしているのは公開当時、屋台で買った海賊版のソフビで、あこがれは変わらず、あのBMX...。そして40年経ったいまも、心やさしき宇宙人は、僕の心の中の大切な友だちでいてくれるのだった。

text by 山下浩平(mountain mountain)

デザイナー・絵本作家。1971年生まれ。神戸出身。大阪芸術大学卒。キャラクターデザインを中心にさまざまなデザイン活動を行う。2025年の大阪・関西万博公式キャラクター“ミャクミャク”のデザインなども。やましたこうへい名義で『ばななせんせい』『ファーブル先生の昆虫教室』など、絵本や児童書も多数。趣味は昆虫の観察。日本グラフィックデザイン協会会員。
www.mountain-mountain.com
紙面掲載日:2023年1月20日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
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