レポート

Autumn2023

no.59

WEB掲載日

2023年12月11日

BMXタイヤを“筆”にアートを描く展覧会 NAO YOSHIDA個展 「One and Only : 自転車で描く軌跡」
2023年7月21日(金)~8月6日(日)
at YOKOHAMA BAYSIDE WAREHOUSE(神奈川)

text & photo by 露木“Rocky”正行(フォトグラファー)

7月21日に開催されたライディングパフォーマンス。背景に作品と高級家具が並ぶ豪華な空間を、自由に謳歌するすばらしい演技で、観客全体を感動の渦に巻き込んだ。

BMXは、レースとフリースタイルの2つの競技に大きく分類されるが、3つ目の「アート」というジャンルを確立させた人物がいる――BMXアーティスト、NAO YOSHIDA。BMXのタイヤで描く技法「RIDRAWING」は誰が想像できただろうか。

個展のアイコンとなった作品『One and Only』は、キャンバス上に凛と咲いた赤い花が印象的。それぞれがもつ個性と、唯一無二であることの美しさを表現している。

彼はプロBMXライダーであり、「シルク・ドゥ・ソレイユ」のBMXアーティストとしてワールドツアーに参加。そこで出会ったさまざまなアーティストの自由な発想に感銘を受け、以前より温めていた構想に本格的に着手する。それがBMXとアートをつなげる、「RIDRAWING」の始まりだった。

2023年7月、2年ぶりとなる大規模な個展が開催され、筆者はオープニングパーティーの撮影で参加した。会場はラグジュアリーなファニチャーセレクトストア。NAOさんの作品はインテリアとの相性が非常に良く、最高級の家具とともに展示されていた。カラフルな絵具がキャンバスの上をあざやかに舞う。自然界に生きる美しい命、光、風、時間と空間までも感じさせる作品は、まさに花鳥風月。森羅万象を描いたようなRIDRAWINGのもつ奥ゆかしい表現が観客を魅了していた。

RIDRAWINGの実演で、タイヤをキャンバスに走らせるNAOさん。BMXとアートがつながった瞬間を目撃した。

パーティーではライブペイントも披露された。タイヤを“筆”にして描くRIDRAWINGを実際に見られる貴重な機会だ。会場にはNAOさんの家族や友人、BMXスクールのキッズ、そして大勢のファンが駆け付けた。まずはBMXフラットランドを独自にアレンジしたショー。「Merry Christmas, Mr. Lawrence」をBGMに、圧倒的な演技力と独創的な世界観で魅せる。高速スピンの最中、片腕を高々と上げ、掌をいっぱいに広げた瞬間、まるで彼の背中から銀色の羽が生えたようだった。

続くライブペイントでは、BMXからタイヤを外し、大きなキャンバスにタイヤを走らせてゆく。絵具が流れるように優雅な曲線を描き、さまざまなタイヤの軌跡がやがて一つになる。タイヤで一筆入れる瞬間の緊張感たるや、現場でしか味わえない空気感だ。

これぞ“唯一無二”。展覧会タイトルの通り、「One and Only」を体現できる展覧会だった。
 
紙面掲載日:2023年10月27日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
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