サイクルスタイル no.62 下駄をはいてペダルをこぐ!約100年前の服で高校に通い“昭和初期”をいま、生きる「増田穂高さん」 Instagram: @masu_hota

愛車は?

「昭和26年当時の山口自転車です。以前はマウンテンバイクに乗ってましたが服装に合わず、乗るのをやめました」

お世話になっている自転車店は?

「中学生の頃からよくしてもらっている県内の古道具店。いまの愛車も、戦前戦後の自転車がほしいなぁ~と探していたところ、お店から連絡をいただき、骨董市のようなところで競り落としてもらいました。最後まで競り合ったのは東京の有名な博物館の方だったんですよ!」

いつか走ってみたい場所は?

「家に古いモノがたくさんあり、身近だったから。それらの使い方を祖父母に教えてもらったのがきっかけです」

昭和初期からタイムスリップしたかのような出立ちで登場してくれたのは、長野県在住の高校生・増田穂高さん。形の整ったカンカン帽をかぶり、白の開襟シャツ、ウール素材のパンツ。そのポケットには懐中時計を忍ばせ、足元は下駄!

増田さんが徹底したこだわりを見せる昭和初期のスタイルは、服装だけにとどまらず、当時の暮らしや道具にも及ぶ。自転車もこだわりの一つで、見るからに重そうな実用車だ。もちろん変速ギアはなし。この自転車の後ろ荷台に教科書の入ったカバンをくくり付け、下駄でペダルをこいで毎日片道10kmを通学しているという徹底ぶり!

「収集を始めたのは中学生で、最初はクリップとか小さな物から。中学では眼鏡だけでしたが、高校は私服の学校に進学したので全身、当時の服を着て通学しようと思ったんです」。

お気に入りは中山道・奈良井宿。「歴史的建造物が連なる町並みが見事なんです」。
Instagram:@masu_hota

昭和初期のあこがれの存在は?とたずねると、「僕のご先祖です」と迷いなく答える増田さん。幼い頃、曽祖父など先祖の古い写真をよく見せてもらっていたそうで、

「映画俳優もかっこいいとは思いますが、僕は実際にその時代を生きた人の日常や服装に惹かれるんです」。増田さんのこだわりは見た目ではなく、“暮らし”に軸があるようだ。

現在は高校3年生。これからどんな暮らしを目指すのだろう。

「理想は古い日本家屋に住むこと。たとえば当時の囲炉裏とかまど、くみ取り式便所に薪風呂、井戸が残っているような。あこがれの時代と同じ暮らしをしたい」。

そう語る増田さんが今後も守り続けたいものって?「どんなものでも修理して直し、使い続けていきたいです。いまは大量消費・使い捨ての時代。だからこそ、昭和初期から一世紀近く経っても使えるものだとか、昔のものを残さないといけないと思っています」。

彼のこの言葉ですべてが腑に落ちた。その想いこそが、増田さんの行動や表現の理由だった。 最後の質問。現代の方が良いと感じるものは?「医療技術。生活するうえで実感します」と言った後に一拍置き、「でも、電車の乗り換えを調べる時にはコレがないとどうにも難しいですね」とスマートフォンを取り出し、笑って見せてくれた。
text by 横井良祐(cycle編集部) photo by 杉谷紗香(cycle編集部)
紙面掲載日:2024年10月31日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
関連記事