連載

Autumn2024

no.63

WEB掲載日

2025年2月19日

[エッセイ] 輪行旅 線路になるはずだった場所・2
サイクリングシーズンの秋、到来!ということで、“鉄分”高めの輪行サイクリングについて、鉄道好きの自転車店店主・Bici Terminiの宮崎さんに語ってもらった。今回の舞台は三重県西部のローカル線、JR名松線。 bicitermini.com

text by 宮崎浩二(自転車店 Bici Termini 店主)

伊勢奥津駅。レールはここまで。簡易フェンスが途中駅らしい。

自転車店主ですので、定期的な契約更新や展示会などで、上京の機会がちらほらあります。現地での移動のために折りたたみ自転車のBromptonを持参するのですが、帰阪途中に下車して自転車でぶらぶらすることもしょっちゅうです。

今回の寄り道旅では、これまで乗ったことのなかったJR名松線を訪ねてみることに。三重県の松阪駅から西へ、伊勢奥津駅までを結ぶローカル線です。本来ならば「名松線」の名の通り、松阪と名張を結ぶ路線として計画なされたものの、伊勢奥津までで計画が頓挫してしまっています。この伊勢奥津から名張までの未着工区間を自転車で走ってみようと計画したのです。

名松線は普通列車のみ。松阪駅を出た後、途中駅まで走っては止まりを繰り返し、名松線唯一の“交換駅”、家城駅へ到着。停車時間は十数分あるので、ちょっと駅から出てみたり、離合する列車の写真を撮ってみたり(長距離切符での乗車だったため、途中下車OKでした)。なお、交換駅で交換されるのは「スタフ」です。

名松線では、松阪~家城駅間は票券閉塞式、家城~伊勢奥津駅間はスタフ閉塞式といい、上下線の各列車は走行区間ごとの“通行証”のようなものが必要。それを持っている列車だけが進むことができますので、この駅で互いのスタフを交換するわけです。

伊勢奥津駅の外観。静かな山村の小駅といった雰囲気。

数駅走ると、終点の伊勢奥津駅へ到着。ホームは片面のみで車止めが設置されています。簡易なフェンスや給水塔の配置も含めて、線路を延伸できる構造のまま終点になっている様子。計画が頓挫したのは、近鉄電車が松阪から名張を直線的に結んでいることが影響しているのでしょうか。

ぽつぽつと雨が降ってきましたが、レインジャケットを着て自転車で出発。今回は伊勢本街道を通ります。興津宿の街並みはすばらしいものでした。
名松線でそれなりの標高を稼いでいたおかげで、始めの6kmほどを一気に登ってしまえば、それ以降は基本的に下り基調。苦もなく、シャーっと軽快に走っていけます。

とはいえ、旧街道の一部には山中を行く未舗装路の区間もありました。それはそれでおもしろく、筆者はBromptonを押して進みました。昔の人々はここを歩いたのでしょうね。

比奈知ダムにかかる赤岩大橋にて。雄大な風景です。

途中から名張川沿いを下る形になり、山間を流れる川とともに走行します。かなりのハイペースで下ることができますが、それなりにクルマの通行量があり、途中には複数のトンネルもありますので、ライトは必須です。

旅のハイライトとなる写真は、比奈知ダム近くの赤岩大橋とともに。とても雄大な景色です。このルートを選ばなければ、まず訪れることのない場所ですが、自然と人工物の対比が美しいです。

赤岩大橋から近鉄名張駅までは、ほぼ下り。ということで、一気に下って名張駅でゴール!駅からは近鉄特急にて帰阪しました。この日の走行距離は約30km、獲得標高は311mでした。東京遠征と絡めた輪行サイクリング旅、参考になりましたら幸いです。

 
紙面掲載日:2024年10月31日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
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