76×76=5776 ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン『スイス自動車クラブ 自転車は車に気を付けましょう、車は自転車に気を付けましょう』

ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン
「スイス自動車クラブ 自転車は車に気を付けましょう、車は自転車に気を付けましょう」
1958年 個人蔵(スイス) 印刷、紙 127.6×90.3cm
©Museum für Gestaltung Zurich, Switzerland

76×76=5776。この数式は、cycle紙のグラフィックデザインにおける“骨格”を表すもの。さて、何でしょう? ――正解は「グリッド」の数。

cycleのデザインでは1グリッド=1文字(この文章の文字サイズ)で、デザイン面の上下左右に同じサイズのグリッドが76列×76行分、全部で5776個、張り巡らされている。レイアウト時はこのグリッドを「ガイド」としてビジュアル要素を整えて並べていく。

スイスは「右側通行」の国だから、「左折」の手信号は左腕を水平方向にまっすぐ伸ばす。日本を含む左側通行の国では、右腕を水平方向に伸ばしてひじから先を垂直に上に向ける。

グリッドを用いてデザインのシンプルな美しさを引き出す手法は「グリッドシステム」と呼ばれ、世界のデザイン教育における超定番。スイスの巨匠、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンがまとめたグリッドシステムの理論書は必読だ。

彼の解説を読むと、厳格なようでいて案外、自由度が高い。「ルールは存在する、でもルールに縛られず、創造性を発揮しよう」と鼓舞するようにも感じられる。

さて今号の表紙は、ブロックマンが1958年に手掛けたスイス自動車クラブの啓発ポスター。自転車とクルマのドライバーが互いに注意を向け合うことの重要性を促す内容だ。

このポスターで革新的と言われたのが、写真コラージュを用いたこと。自転車は大きく、クルマは小さく。実際の見え方とは異なる比率でモチーフを効果的に配置し、インパクトを与えるデザインを目指した。ポスターを見る側はどう情報を受け取るのか?と考え抜いた彼のポスターは今も「ビジュアル・コミュニケーション」の良いお手本。

ところで、現在はこんな風にクルマとコミュニケーションを取れるかな? 相手が丸目のクルマだったら、もっとやさしくなれるかもしれないけど。

Space In-Between:吉川静子とヨゼフ・ミューラー=ブロックマン


開催中〜2025年3月2日(日) at 大阪中之島美術館

スイスを代表するグラフィックデザイナー、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンと、そのパートナーである芸術家、吉川静子の活動を紹介する回顧展。アートとデザインという分野を超え、チューリヒを拠点に二人が開拓した芸術活動と教育活動に迫る。

nakka-art.jp/exhibition-post/sib-2024/

text by 杉谷紗香(cycle編集部)
紙面掲載日:2025年1月31日
※記事の内容は紙面掲載時点の情報です
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